24.6. 発表原稿や配布資料の作成
プレゼンテーションをするにあたっては、スライド以外にも発表原稿や配布資料を作ったりすることがあります。これらをどう作るべきなのか、検討しましょう。
発表原稿について #
まず発表原稿の準備について考えてみましょう。発表するにあたり、どのような原稿を用意することが望ましいのでしょうか?
どの程度の準備をするべきか、またどの程度の準備ができるかは、時と場合によって異なるでしょう。たとえば 1 時間を超える長いプレゼンテーションを行う場合、一言一句しゃべる言葉を書いた原稿を準備するのは、手間を考えればまず不可能です。一方で、しゃべる内容を何も書き出さず、何も考えずにプレゼンテーションに臨むのは、無謀でしょう。したがって、こうした両極端の間のどこかで、落としどころを見つけることになります。
発表原稿を作るメリットの一つは、プレゼンテーションで話す内容をはっきりさせられることでしょう。特に、大雑把にでも原稿を作ることで
- 話す内容およびそれらの順序
- 話す際に用いる言葉
を一度整理することができます。プレゼンテーションそのものに慣れているかどうか、またプレゼンテーションする内容自体にどの程度慣れているかどうかを考えながら、原稿の細かさを決めましょう。特に、プレゼンテーションに慣れていない人には原稿が有益でしょう(ただし、原稿に書いた文言を一言一句そのまま話さなければいけないわけではありません)。
一方、実際にプレゼンテーションする際に原稿を見るべきかどうかについては、いろいろな意見があります。理想を言うなら「話すべき内容は全て頭の中に叩き込み、何も原稿を見ないで発表すること」ができれば、素晴らしいことでしょう。原稿を見ないで済むなら、その分聴衆の方に注意を払えますし、聴衆も「プレゼンテーションの内容を深く理解している」という印象を持ってくれるでしょう。ただ、何でもかんでも覚えるのには無理があります。一つ例を挙げるなら、統計データを引用する場合に、具体的な数値を 1 の位まで覚える必要はないでしょう。そうした数値は、スライドなり配布資料なりに載せておけば十分です。平凡な結論ですが「プレゼンテーションの内容に関して本質的なこと」を頭に入れるようにしましょう。
配布資料について #
次に配布資料について考えます。プレゼンテーションの配布資料は、あるのとないのとどちらがいいのでしょうか?また配布資料を用意する場合、どのような内容が望ましいのでしょうか?
配布資料を作るべきかどうか #
配布資料の持つメリットは、聴衆が自分の手元で、いつでも情報を参照できることです。したがって
- プレゼンテーションを聞くにあたって登場する用語のリスト
- スライドや口頭では説明しきれないような詳しい説明や数表
などを資料にして配布すると、聴衆の役に立つでしょう。一方で配布資料を用意すると、聴衆はスライドや話し手の他に、配布資料を見ることができます。スライドや話し手からの注意がそれる恐れができることは、配布資料のデメリットと言えるでしょう。こうした点を踏まえて、配布資料を作るかどうか決定する必要があります。
スライドを印刷して配付することの是非 #
よく「配布資料」として、スライドそのものを印刷した紙が配られることがあります。ですがスライドをそのまま印刷したものが配布資料にふさわしいかどうかは、その都度判断する必要があります。たとえばスライドを印刷すると
- アニメーションの類は全て無効になる
- モノクロ印刷の場合、色が濃淡だけでしか表されない
というように、元々あった情報が失われます。ですからスライドを印刷するときは「印刷で見辛くならないか」を、検討しないといけません。
そして見た目の問題以上に、内容面でも「印刷されたスライドは配布資料にふさわしいか」を検討しないといけません。画面上のスライドと手元の紙とでは、載せるのに適切な情報の量が違うからです。たとえば細かい数表をスライド画面に載せるのは不適切です。聴衆は「小さすぎて見えない」と不満に思うだけでしょう。一方、読むために書かれた文章と比べると、スライド中に記述される文章は大雑把です。後でそのスライドだけ見返しても「この時何を言ってたんだろう」と分からなくなる恐れがあります。このようにスライドと紙を見比べると、スライドには少ない情報量が、紙には多い情報量がふさわしいという、大まかな傾向があるのです。
判断の基準は、常に「聴衆がプレゼンテーションを聞きやすくなるかどうか」です。くれぐれも安直に「スライドを配ればいいや」などと考えないでください。配布資料とスライドが別々に必要だと思われるなら、手間をかけてでも配布資料を別途作りましょう。「配布資料とプレゼンテーションのどっちにも使えるスライドを作ろう」などと横着すると、「スライド画面はごちゃごちゃして見辛いし、印刷されたスライドを見ても何を言っているのか分からない」という、最悪のスライドになってしまうかもしれませんよ。
配布資料を何で作るか #
スライドそのものを印刷するのでなくても、「プレゼンテーションだから」というだけの理由で、配布資料が PowerPoint や Keynote で作られることがあります。これは果たして良いことかというと、首を傾げざるを得ません。特に、プレゼンテーション用ソフトウェアで資料を作る際、何でもかんでも箇条書きにされてしまうことがありますが、これは絶対にやめましょう。箇条書きの役割は、あくまで
- 並列されるべき項目を一覧にすること
- 一列に順序のつく項目を並べること
- 入れ子によって、階層構造を表すこと
です(この箇条書きは「並列」の意味ですね)。しかし一般の文章では、隣り合う二つの文の間は必ずしも並列ではなく、文と文の間には様々な接続詞が入ります。たとえば二つの文章が「しかし」で繋がれば逆接、「なぜなら」で繋がれば理由の説明といった具合です。こうした並列ではない文を箇条書きで並べてしまうと、文章が読み辛くなってしまいます。
ためしに、今の文章をわざと PowerPoint による箇条書きで作ってみました。読み比べてみてください。無理やりスライド形式にしたことで情報が失われて、さらに箇条書き記号が「ノイズ」になっているのが分かるはずです。
また既に述べたように、そもそもスライドには少ない情報量が適しています。ですからスライドの形式で無理やり文章を書くと、配布資料を作る場合であっても、スライド作りの間隔に引きずられて情報量が落ちてしまう恐れがあります。このようなことを考えると、PowerPoint や Keynote で読むための文書を作ることは望ましくないといえます。文書作成にはそれ専用のソフトウェア( 22. 文書作成 )があるのですから、そちらを使うよう心がけましょう。