24.2. スライドレイアウトの原則
良いスライドを作るための、レイアウトの原則を述べます。
スライド 1 枚の分量について #
まずはスライドの分量に関する大原則を記します。ここに挙げる 2 つの条件を破ってしまうと、スライドが見やすいかどうか以前に、内容が読めなくなってしまいます。
内容を詰めこみすぎない #
1 枚のスライドに載せる内容は少な目にしましょう。
まず、人間が物事を理解するスピードには限度があります。プレゼンテーションをする側からすれば、スライドに多くの情報を詰め込むことは簡単で、そのスライドを早送りで次々と切り替えることも簡単です。ですが聴衆からすれば、理解が追い付かないうちに次から次へとスライドを見せられるのは、地獄にいるような苦痛を感じてしまいます。聴衆をこのような状態に追いやってしまっていけません。
またスライドは普通、遠くから眺められるものです。そしてスライドを表示する媒体はプロジェクタやディスプレイですから、長時間凝視すると目が疲れてしまいます。これらの理由から、スライドは印刷物と比較して、長文を読むのに向いていません。ですから普通の文章と同じような勢いで文字を詰めるのはやめましょう。
さて、スライドを製作する観点に立っても、1 枚のスライドに情報を詰め込む理由はありません。スライドに載せる情報を増やすということは、スライド中で利用する面積の割合を増やすことです。したがって情報が増えると、必然的に
- 文字や図を小さくする
- 余白を切り詰める
といった操作が必要になります。こうした操作は、見やすいスライドを作るための工夫の余地を減らし、ひいては聴衆がスライドを理解するのを妨げてしまうのです。またスライドを使っていれば、内容を複数枚のスライドに分割することは簡単にできます。ですから多くの情報を伝えたいときでも、スライド 1 枚に内容を詰め込むのではなく、複数枚のスライドに分ければ良いのです。
こうした要素を踏まえると、1 枚のスライドに内容を詰め込み過ぎるのは厳禁だと分かります。もちろん 1 スライド当たりの適切な内容の量は、プレゼンテーションの場面によって多少は変わってきます。ですが「内容が詰まり過ぎたスライドが見辛いこと」は、いつでも間違いありません。そして聴衆から「スライドの内容が多すぎる」という文句が出ることはあっても「スライドの内容が少なすぎる」という文句が出ることは、普通は起こりません。情報の詰め込み過ぎには、細心の注意を払いましょう。
文字や図は大きめにする #
スライドの文字や図は、どちらも大きめにしましょう。
編集中は目の前にスライドが現れ、しかも手元で編集する文書に比べると文字が大きめです。そのため「スライドとして遠くから眺めたときにどの程度見えるか」を忘れがちです。また、聴衆の視力は 1 人 1 人まちまちです。ですから意識して、「部屋の一番後ろに視力の悪い人が座っても見える程度」の文字サイズを使うようにしましょう。
とはいっても、実際にはどの程度の大きさを使えばよいのでしょうか?今挙げた客観的な判定基準だと、少し悩んでしまいます。そこで簡易的な判断法として「ちょっと大きめだと感じる程度の文字サイズ」を使うことをお勧めします。これなら主観的で、そこまで迷うことなく判断できるのではないでしょうか。また実際のプレゼンテーション時に「文字が小さい」と文句を言う人はいても、「文字が大きい」と文句を言う人はいません。ですから「小さい文字か大きい文字か」で悩んだら、大き目の文字を使うのが安全です。
無論、物には限度というものがあるので、大きくし過ぎるのも考えものです。極端な例として、特大の文字を表示させたスライドを次々と切り替える「
高橋メソッド」と呼ばれるも手法あります。高橋メソッドは強いインパクトを与える一方、これが有効な場面は限られると思われます。「ちょっと大きめ」という基準を守りながら、ほどほどに大きくしましょう。
余白と配置 #
続いて、スライド中に登場するものをどのように配置すべきかを検討します。
適度に余白を取る #
スライド中では適切に余白を取りましょう。一般に人は、近くにあるもの同士の間に関係があり、遠くにあるもの同士の間に関係がないと感じるものです。ですから関係のあるもの同士は近づけて、関係のないもの同士を遠ざけるようにすると、読みやすくなります。
配置を揃える #
スライドに載せる文字、図や写真などのものは、揃えて配置しましょう。たとえば、次のサンプルを見てください。
このスライドでは、単に文字の配置位置を縦に揃えただけです。それでも整然とした印象と、文字が揃っている位置に「見えない縦線」が感じられるのではないでしょうか?
一方、位置が不ぞろいだと微妙な印象を受けます。たとえば次の Word 文書は、微妙に 4 人の名前の縦がズレています。整然としていない感じがするのではないでしょうか?
各要素のデザイン #
最後に、スライド上に配置されたそれぞれの要素をどのようにデザインするかを考えます。
違うものは違うように見せる #
意味の異なる要素にはデザイン上でも差をつけて、異なるように見せましょう。スライド中にはタイトル、見出し文、普通の文など色々な要素があります。こうした要素の間に差をつけたデザインをしておくと、文を読む前にぱっと見ただけで、意味が違うということが分かるようになります。
もう一度、上で挙げたスライド例を眺めてみます。
このスライドでは「タイトル」と「著者」の間の文字のコントラストをかなり強調しています。ですからぱっと見ただけで、1 行目と 2 行目の表す意味が異なることが分かります。
ところがこれを同じようなフォントにしてしまうと、スライドが見にくく変化します。違う役割のものは、違うように見せましょう。
同じものは同じように見せる #
スライドのデザインは、全体を通して一貫させましょう。プレゼンテーション中のスライドは、得てして同じ要素を含みます。たとえば多くの場合、スライドには見出しが入っているはずです。そういったものがスライド毎に異なる見た目をしていると、スライドの意図をつかむのが難しくなります。
極端な例として、1 つの文章中にある文字を 1 つ 1 つバラバラにしてみましょう。フォントも、文字の大きさも、文字色も、背景色も、傾きも、全部を一斉に変えてみます。そうすると、どうなるでしょうか?
これでは怪文書ですね。
この怪文書は「デザインの乱雑さが変な印象を生み出すこと」を教えてくれます。さすがにプレゼンテーション時にここまで極端なスライドを作る人は、あまりいないと思われます。ですが「一部だけデザインの統一ができていないスライド」は、しばしば見かけるのではないでしょうか。そうした部分があると聴衆は変な印象を感じてしまうため、スライドが分かり辛くなる恐れがあります。気を付けましょう。
敢えて規則を破る #
最後に、意図的に規則を破ることの効果に触れておきます。
ここまでに挙げたレイアウトの原則は全て、整然とした、分かりやすいスライドを作るためのものでした。このことを裏返すと、レイアウトの原則を破ることによって「整然とした感じ」が失われることを意味します。時と場合によっては、こうした事情が有効なテクニックになり得ます。
たとえばこのページ中でも、怪文書風に書いた「はいぱーワークブック」という文字の例を紹介しました。もしプレゼンテーションの中で「奇妙なものごと」を紹介する場面があるのなら、その部分だけを怪文書風に仕立てることは有効だと言えましょう。また、スライド中で注目して欲しい部分があれば、その部分のデザインだけを崩すのも手です。デザインが崩れた場所が 1 箇所だけあると、その部分に注目してしまうからです。
ただし、規則を破ることの有用性を勘違いして「規則を守る必要がない」などと思ってはいけません。いま紹介したのは「全体を通してデザインの規則が守られた中で、局所的に規則が破られたところがあると、そこに注目が集まる」ということです。ほとんどの場合、規則が全くなければ「ただ見辛いだけのスライド」に終始してしまいます。くれぐれも気を付けてください。