24.1. スライドを作り始める前の下調べ
プレゼンテーション用のスライドを作り始める前に、必要な下調べを行いましょう。
プレゼンテーションをすることになると、多くの人は「どういうスライドを作ろう」と考えがちです。ですが実のところは、スライドを作り始める前にプレゼンテーションを行う環境の下調べをしないといけません。というのも、そもそもスライドを使うのに不適切な場面で無理にスライドを使ってしまうと、プレゼンテーションが失敗してしまうからです。加えてスライドを使う場合、環境によってはスライドに強い制約がかかることがあります。それを無視してスライドを作ると
- プレゼンテーション直前に大幅な手直しに迫られる
- プレゼンテーションのスライドが、画面上で綺麗に表示されなくなってしまう
- そもそもスライドの表示自体が不可能になってしまう
といった不幸な目に陥ってしまいます。こうした事態を避けるための下調べを行いましょう。
コンピュータを使う必要性 #
そもそも根本的な問題として、あなたが行うプレゼンテーションでは**コンピュータを使う必要があるのでしょうか?**コンピュータを使わなくても、たとえば
- 黒板やホワイトボードに書きながら説明を行う
- 道具を一切使わず、トーク力のみで勝負する
という選択肢があり得ます。このような手段ではダメなのか、一度疑ってみましょう。そうすることで、コンピュータを使う結論に達する場合でも「なぜコンピュータが必要なのか」がはっきりするはずです。コンピュータの役割がはっきりすれば、スライドを作るときの指針が得られるでしょう。
いくつかの観点から黒板、OHP とプレゼンテーションスライドを比較してみましょう。
トラブルの頻度: 黒板は、チョークさえあればトラブルが起きる可能性はかなり低いと言えます。OHP も、機材故障以外のトラブルは少ないです。一方スライドを使うと、プロジェクタとの接続やコンピュータの設定など、トラブル要因が格段に増えます。
その場での内容変更: 黒板では加筆・修正が自由にできます。OHP の場合、シートの内容を一部だけ修正・削除はするのは難しいですが、加筆をしたり一部のシートを丸ごと削除するのは簡単です。一方スライドの場合、プレゼンテーション時にその場でできる加筆・修正はあまり多くありません。
その場での順序変更: 黒板なら何をどう書くか自由に決められます。OHP の場合、出来上がったシートの順序を入れ替えることは簡単です。一方スライドの場合、決められた順番で表示させることしかできません。
図表の提示: 黒板では自由自在に図表が書ける一方、凝ったものを作るのは困難です。一方でスライドの場合、黒板ほど自由に図表を書くのは大変ですが、作りこんだ表を容易に表示させられます。また図表の提示に関して、OHP は黒板とスライドの中間的な性質を持ちます。
画像、音声や動画といったマルチメディアデータの利用: これらは黒板や OHP ではまず不可能です。スライド以外に実現する手段はないでしょう。また、インターネット上のウェブサイトへリンクを貼るのも、スライドだけに許された特権といえます。
このように黒板、OHP とスライドを比較すると、特性が異なることが明らかに分かります。したがってプレゼンテーションする状況や内容によって、どのような機材を使うべきかが変わってくるのです。また、プレゼンテーションに使う機材が 1 つである必要はありません。場合によっては、複数の機材を並行して使うことも考えられます。
ここでも機材はあくまでプレゼンテーションの手段に過ぎないという事実を確認しましょう。提示したい情報の内容を考えて、それにふさわしい機材 (の組合せ) を選択してください。そして利用する機材が決まったら、その機材を最大限生かすようにプレゼンテーション資料を作りましょう。
会場の環境について #
OHP シートやスライドを使う場合に、会場の環境についてチェックすべきことを述べます。
部屋の広さと画面の大きさ: プレゼンテーションをする部屋がどれくらい広いのか確認しましょう。奥行きが長いようであれば、OHP シートやスライド中の文字を普段より大きめにするなどの対応が必要になります。
光環境: プレゼンテーションを行う時に、どれだけ部屋が明るいかを確認しましょう。部屋に対して画面が明るすぎると聴衆の目に悪いですし、画面が暗めのときはOHP シートやスライド中の色のコントラストを強めにつける必要があります。また運が悪いと、表示される画面に部屋の明かりが写り込むことがあります。そういう場合は、どの色が利用に耐えるかを検討しなければいけないでしょう。
機材について #
最後に、機材に関してチェックすべきことを述べます。コンピュータを使うことになった場合は、以下の説明を読んでください。
画面のサイズの縦横比: ディスプレイやプロジェクタの画面は、横と縦の長さの比が 4:3 あるいは 16:9 になっています。実際に使う画面とは異なる比率のスライドを作ってしまうと、画面いっぱいにスライドを表示することができなくなります。後から縦横比を修正するのは大変ですから、最初に確認しておきましょう。
プロジェクタやディスプレイとの接続チェック: 自分のコンピュータでプレゼンテーションを行う場合、プロジェクタやディスプレイといった出力機器に接続できるか確認しましょう。自分の端末および出力機器についている端子の規格の一覧表を作った上で、その規格に対応したケーブルが用意されていることを確認しましょう。
プレゼンテーションを再生するコンピュータの確認: もし自分のものではないコンピュータでプレゼンテーションを行う場合、まずは「どのソフトウェアが利用可能か」を確かめてください。これを間違えると後々の努力が水の泡になります。また、プレゼンテーションソフトが共通していても、フォントの違いなどで思い通りの見た目が再現できないことがあります。後で環境依存性の問題への対応策を述べますので、それに従って手を打ってください。
音響設備: スライドで音声を流す予定なら、音響設備について「ケーブルの規格」や「出せる音の大きさ」を確認しておきましょう。
聴衆が手元で使える道具: 聴衆が持っているものや、聴衆に持たせられるものも確認しましょう。たとえば資料の配布が可能なら、詳しい説明を配布資料に回し、スライド上で説明のポイントを絞り込むことができます。また簡単な投票システムが用意されていれば、その結果を見ながら、インタラクティブなプレゼンテーションをすることも可能になります。