18.2.2. プライバシー
ご存知のとおり、プライバシーの権利とは「私生活上の事柄をみだりに公開されない権利」のことです。プライバシーの権利は日本国憲法で明示的には触れられていないものの、今日ではれっきとした権利として確立しています。たとえば有名な「宴のあと」裁判 (東京地方裁判所 昭和 36 年 (ワ) 第 1882 号) の判決では、判決理由のところに「個人の尊厳……のためには、正当な理由がなく他人の私事を公開することが許されてはならない」と記されています。憲法 13 条で規定される「個人の尊重」を達成するために、プライバシー権が必要だと解釈されているのです。
さてインターネットをはじめとする情報技術が身近になることによって、プライバシーが脅かされることが多くなりました。一つの理由はもちろん SNS です。SNS は主として個人同士がコミュニケーションを取るための道具ですから、個人の私生活に関する情報が集まります。そして最近ではテレビのニュース番組で利用されるほど、SNS の利用者数は増えました。相当な量の個人情報が SNS に集まっていますから、当然 SNS 上でのプライバシー侵害も多くなります。また、スマートフォンに代表される携帯デバイスでは「自分が今いる場所」などといった情報を求めてくることが多くなりました。こうした情報は的確に使えば便利ですが、一方で使い方を誤ると、意図せずに自分の情報をさらけ出してしまうことになります。
そこでこの節では、プライバシーに関わる問題を議論します。他人プライバシーの侵害をしないため、そして自分のプライバシーを守るためにはどうすれば良いか、考えてみましょう。なおプライバシーと関係する「個人情報」については、次の 18.2.3. 個人情報の取り扱い で別途議論します。
「プライバシー」の範囲 #
先に挙げた「宴のあと」裁判の判例中では、プライバシーの侵害が認定されるための要件が具体的に挙げられています。それによれば、公開された情報が
- 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること
- 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立つた場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること
- 一般の人々に未だ知られていないことがらであること
の全てに当てはまり、その上で情報を公開された人が実際に不快、不安の念を覚えるとき、プライバシーの侵害が認定されます。
SNS とプライバシー #
「プライバシーの問題」と聞いて、真っ先に思いつくのが Facebook や Twitter に代表される SNS (Social Networking Service) でしょう。特に典型的なのは、写真を巡る問題です。
たとえば、あなたが仲の良い友達数人と旅行に行ったとしましょう。そして旅行から帰ってきた後、友達の一人があなたと一緒に写っている写真をアップロードしたとします。このとき、あなたはどう思いますか?人によっては「楽しい思い出をシェアできてうれしい」と思うかもしれません。一方、写真を撮られるのが嫌な人は「自分の写真を見られたくない」と思うことでしょう。写真を撮られるのが好きな人であっても、もし別の友達との予定をドタキャンして参加した旅行であれば、自分の写真を公開されたくないと思うはずです。
このように、何がプライバシーの侵害にあたるかは時と場合によって色々変わり得るものです。また法的に保護されるレベルの侵害でなくとも、情報が公開されることを良いと思うか悪いと思うかは、人それぞれで違います。むやみやたらと他人のことを書くと、内容がネガティブなものでなかったとしても嫌がられる可能性があります。このことを忘れないようにしましょう。
また他人からのメールを公開することもプライバシーの侵害と見なされることがあります。実際にプライバシーの侵害にあたるかは時と場合によって異なりますが、ウェブサイト上で人からもらったメールを引用したいときは、念のため送信者に許可を取った方が良いでしょう。
肖像権 #
肖像権とは自分の姿に関する権利のことです。たとえば他人の顔写真を勝手に撮り、それを本人に無断で利用することはプライバシー権の侵害となります。またタレントなど有名人の顔写真は財産という性格もあり、勝手に利用すると財産権の侵害となります。
最近ではインターネット上に簡単に写真をアップロード・公開できるようになっています。しかしその写真に他人の顔が映り混んでしまえば、それは肖像権の侵害となります。十分注意してください。