コンピュータと教育

18.3.1. コンピュータと教育

情報技術の進歩は私たちの生活に様々な変化をもたらしました。教育も例外ではありません。昨今では頻繁に教育分野における ICT (情報通信技術) の活用が叫ばれており、みなさんも 1 度は見聞きしたことがあるでしょう。よく教育分野では「ICT の活用」とひとくくりにされますが、その内容を分けると主に以下の 4 つになります。

  • 教材のデジタル化
  • 教材のオンライン化
  • 教室へのデジタル機器の導入
  • 教室のオンライン化

これらについて、個別に実例を見ながらその効用を考えていきましょう。

教材のデジタル化 #

教育への ICT の活用として真っ先に挙げられるのが教材のデジタル化です。旧来の教育では紙の教科書などが用いられていましたが、最近では PDF 形式で用意される教科書も徐々に増えてきました。またデジタルデータであれば、教材として使えるのはただの文字や絵にとどまりません。たとえば語学の授業なら音声データを利用できますし、生物学の授業では 3DCG や実写の実験動画を教材に用いることができます。米国では教科書を電子書籍として提供する動きが加速していますし、日本でも教科書の付属 CD の中に文字ではないマルチメディアの教材が含まれることが珍しくなくなりました。皆さんも既に、何かしらの授業でデジタル教材を利用した経験があると思います。

教材のオンライン化 #

教材のデジタル化と合わせて、教材をオンライン化することも活発に行われるようになっています。たとえば東京大学の 1 年生の必修科目「英語 I」では、リスニング教材がオンラインで配信されています。また、この「はいぱーワークブック」自身もオンライン教材です。

オンラインで発信することのメリットは何と言っても、インターネットに接続できる環境さえあれば、ほとんど手間やお金をかけずに教材を配信できることです。紙媒体のように人数分のコピーを取ったりする必要もないので、色々な授業で講義の資料をオンラインで配信するようになってきています。

また、オンライン化のもう一つのメリットはいつでも教材のアップデートができるということです。紙媒体で配布した教材の訂正や更新は不可能ですが、オンラインならファイルを差し替えるだけで訂正や更新ができてしまいます。このように「常に最新の情報に保てる」という利点は、進展の早い学問分野では非常に重宝されることでしょう。

教室へのデジタル機器の導入 #

教室には色々なものがあります。古典的な教室だと学生や先生が座るための机や椅子、そして黒板が置かれています。情報技術の発展に伴って、最近では教室にテレビやディスプレイが置かれたり、あるいはプロジェクタが置かれるようになりました。こうした機材によって、先生が使える教材の選択肢が増えたのは間違いありません。

よりデジタル機器を積極的に活用することを目指した教室も登場してきています。たとえば東京大学駒場キャンパスには

KALS という教室があります。この教室の特徴の 1 つは ICT の活用です。教室に単にプロジェクタがあるだけでなく学生一人一人にタブレット PC が用意されており、その画面をプロジェクタに映し出したり、プロジェクタに表示されている画面から直接 PC を操作できるようになっています。こうした設備を活用することによって、学生同士の意見交換がし易くなるというわけです。

教室のオンライン化 #

最近では動画をインターネットで配信するのも容易になったので、授業そのものをオンラインで配信する試みも広く行われています。東京大学でも

Todai OpenCourceWare で多くの授業が公開されていますし、また米国の Coursera 社とも連携して

大規模オンライン公開講座 (MOOC) が開講されようとしています。OpenCourseWare では単に授業映像を公開するのみですが、MOOC では授業に加えてテストなどの課題を用意し、修了証の発行などもできるようになっています。

さらに、最近のコンピュータやタブレット端末には小型のカメラが搭載されていますので、一方向だけではなく双方向のビデオ会話も容易に行えます。こうした技術を利用して、教室を丸ごとオンライン化する取り組みもなされつつあります。

ICT で教育はどう変わる? #

これまでに紹介した ICT によって、教育環境はどのように変わるのでしょうか?たとえば 20 年後の教育は、私たちがこれまで受けてきた教育とは全く違うものになるのでしょうか?

これはあくまで筆者の私見ですが、情報技術が発達しても、何かが現在の教育に完全に取って変わるということは無いと思います。たとえばインターネット回線が発達すればオンラインで相手の顔を見ることはできますが、しかし短絡的に「じゃあ教室はなくてもコンピュータを付ければ良い」と言えるでしょうか?筆者はそうは思いません。大学にしろそれ以外の学校にしろ、学生が一同に教室という「場」に集うことはそれ自体意味があり、インターネットでは現実の場の代替をすることは決してできないでしょう。また、タブレットデバイスが発達したところで、紙は不要になるでしょうか?筆者はそうは思いません。紙なら何枚も机に広げられますが、機械が表示できる情報はディスプレイの大きさと数に制限されます。また数学者や物理学者をはじめとする一部の人は、今でも黒板とチョークを好んで使います。これは物理的なモノである黒板とチョークそのものに意味があるからで、他の物では代替が効かないからです。

しかし、情報技術が我々の教育に多大な利益をもたらすことも間違いないと筆者は考えています。たとえば生物学の教科書を開けばカラフルな写真がたくさん載っていますが、もしそれらの写真が実写の動画になったり、あるいは 3D 化されて自由自在に動かせるようになれば、学習者のより良い理解に繋がるのは間違いないでしょう。またインターネットが世界中を繋ぐことで、私たちは遠い外国にいる人と簡単に連絡を取り、そして共に学ぶことができます。インターネットが既存の学校という場の肩代わりをすることはできませんが、一昔前では決して会うことのなかった遠い距離の人たちを結びつけることによって、インターネットは新しい場を生み出すことができます。

教育分野に限ったことではありませんが、ICT の活用を図るにはインターネットやコンピュータの特性を理解することが不可能です。そして特性を理解して ICT を使えば、私たちの教育環境を劇的に進化させることもきっと可能だと思います。上では筆者の私見を述べましたが、みなさんは ICT がどのように教育に役立つと思いますか?ぜひ考えてみてください。

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