18.1.3. 情報活用とコミュニケーションの促進
情報技術、特にインターネットは、私たちの情報活用とコミュニケーションを大いに進化させました。
インターネットが世界中に張り巡らされ、そして通信速度が上がることによって、私たちは家に居ながらにして世界中の様々な情報にアクセスできるようになりました。たとえば、この「はいぱーワークブック」もその一例です。みなさんは、世界のどこかにある「はいぱーワークブック」が置かれたサーバから情報を取り寄せ、この文書を読んでいるのです。
ですがインターネットが与えた影響は、単なる「情報の量」の問題だけに留まりません。インターネットによって、通信の質やスタイルが非常に大きな影響を受けているのです。その様子を紐解いてみましょう。
インターネットの双方向性 #
インターネットの特徴の一つに通信の双方向性があります。かつては「情報発信」といえば、テレビ・ラジオ・新聞といったマスメディアや雑誌・書籍にほとんど限定されていました。したがって情報を供給する側が情報を受け取る側に対して、一方的に情報を送るしかなかったのです。ところがインターネット上では、情報をどちら向きにも流すことができます。これによって一般市民が情報を発信できるようになったことは、既に 18.1.2. 情報配信コストの低下 でも述べた通りです。
通信の双方向性が現れる典型的な例は、最近のテレビ番組でしょう。インターネットが現れる前までは、コンテンツ発信側はリアルタイムで視聴者の反応を見ることができませんでした。ところが今ではテレビのリモコンには「データ放送」に関連したボタンがついており、テレビ局側が簡単なアンケートを番組中にリアルタイムで実施できるようになりました。また Twitter などの SNS でテレビ番組に対応した「ハッシュタグ」などの目印を付けて情報を発信すると、テレビ局側がその情報をキャッチできるようになります。このように双方向通信を生かすことで、情報を発信する側と受信する側とでコミュニケーションが取れるようになるのです。
コミュニケーションの加速 #
インターネットの発達のおかげで、私たちのコミュニケーションは加速されました。たとえば古くからある手段ではメール、最近の手段では SNS を用いれば、遠く離れた人ともコミュニケーションが取れます。また世界がインターネットに覆われていくにつれ、私たちは遠くの世界にいる見ず知らずの人ともコミュニケーションを取れるようになりました。このような物理的制約からの解放は、人類史上例がないことです。
また最近では、サイボウズ、ChatWork や Slack に代表されるグループウェアの台頭も目を見張るものがあります。グループウェアは、複数の人からなるグループでのコミュニケーションを取りやすくするためのツールです。ものによって機能は異なりますが、多くの場合
- 多人数での会話をするチャットルームの機能
- チャットルームを複数設置し、異なる話題に関する会話を並行して行いやすい機能
- 会話の中で、返信や特定の人へ宛てたメッセージを見やすく表示する機能
- チャットルーム参加者の中で、比較的容量の小さいファイルを共有する機能
- タスクの進捗状況を管理する機能
などがあります。平たく言えば「LINE グループチャットの高機能版」とでもいうべきものです。こうした機能は、たとえば従来のメールやメーリングリストにおける
- 複数の話題が混ざってしまう
- メールの数が増えると、大事なメールが埋もれやすい
- あまり大きいファイルを送れない
といった欠点を補い、コミュニケーションを円滑にしてくれます。
情報共有プラットフォームの整備 #
インターネットの発達に伴って、インターネットを利用して情報を共有するためのソフトウェアも発達しました。
たとえば Dropbox, OneDrive や Google ドライブに代表されるクラウドドライブは、まさにインターネット時代ならではの情報共有サービスです。クラウドドライブは、ファイルをインターネットに常時接続されたサーバに置き、インターネット上のどこからでも取り出せるようにしたシステムです。これによって、メールや USB メモリなどで個々のファイルの受け渡しをせずとも、インターネットの向こう側にあるファイルに何人かでアクセスする形でデータのやりとりができるようになりました。この方式では特に
- 1 対 1 や 1 対多に限定されない、多対多のファイルのやりとりができる
- 複数の人が同じファイルを操作することで、常に最新のファイルが共有される
という重要なメリットがあります。これによって、同じ場所にいない人同士の作業が非常にはかどるようになりました。
それからもう一つ、不特定多数の人の間での情報共有を加速する、少々専門的ななツールを紹介します。それは GitHub や Bitbucket に代表される git リポジトリのホスティングサービスというものです。非常に大雑把に言うと、これらのサービスは
- 複数人によるプログラム開発や文書作成を支援する
- 誰かが公開しているプログラムや文書を、簡単に自分の手元に取り込める
- 誰かが公開しているプログラムや文書に対し、修正のリクエストが送れる
という特徴を持っています。すなわち、仲間内での作業を支援すると同時に、自分たちが作ったものを他の人が使いまわしやすいような仕組みが整えられているのです。これによって、たとえばプログラムなら
- 開発の速度
- 作られたプログラムを利用した、新しいプログラムが作られる速度
の両方が加速されるので、今までに比べて一段と激しい情報技術の発展が見込まれるようになりました。
クリエイティブ・コモンズ #
インターネットの登場によって「著作物」の在り方も大きく変わってきました。一般に「著作物」は、著作権法によって保護されます。これは著作物に対するただ乗りを防いだりするために、必要なことです。しかし現在、著作権法が創作活動の足かせになることがあるという指摘が出ているのです。
この指摘の背景にあるのは、情報技術の発達に伴って著作物および著作者が多様化したという事実です。著作権法は著作者の権利を規定しますが、その規定は一律的であって、著作物の性質とは無関係に決まるものです。また著作者の中には著作権でお金を取る人もいれば、著作物を自由に使って欲しいと思う人もいます。しかし著作権が一律に規定されていれば著作者の意志が何も反映されず、利用者は常に著作権法に則って動かなければいけません。この一律な規定が、二次創作を始めとする創作活動の妨げになると言われています。また著作権者が不明となってしまった著作物を保存する際にも、著作権法の規定が足かせになってしまうことがあります。
こうした状況を打開すべく発足した国際的なプロジェクトが
クリエイティブ・コモンズ (CC) です。クリエイティブ・コモンズでは
- クレジット表示義務の有無
- 改変の許可/不許可
- 商用利用の許可/不許可
- ライセンス継承義務の有無
といったいくつかの項目を選択する方式で、著作物に対する様々なライセンスを定義しています。そして著作者が CC ライセンスを表示することにより、その条件のもとで全ての人が著作物を利用できるようになります。これによって著作者は自分の思い通りに著作物を使ってもらうことが可能になり、近年ではオンラインに限らず色々なものに CC ライセンスがつくようになりました。皆さんの身の回りでも、たとえば美術館の展覧会などで CC ライセンスのついた作品を目にすることがあるかもしれません。
これらの取り組みによって、著作者の意思に則った著作物の適正利用が促進されると期待されています。もし CC ライセンスを見かけたときは、作品だけでなくライセンスの方もちょっと眺めて「どういう二次創作が許されるのか」とか「誰の作品を使って作られたのか」とかに、思いを馳せてみせください。また、皆さんが自分の著作物を作ったときも「これをどういう風に使って欲しいか」を考えてみてください。そして「無料で公開し、一定の条件のもとで広く使って欲しい」と思うのであれば、CC ライセンスを検討しましょう。