18.1.1. コンテンツの充実
まず情報技術がもたらした良い点は、私たちが日々触れる様々な「コンテンツ」の質の向上とだと言えるでしょう。
世の中には色々なコンテンツがあります。テレビ、ラジオ、書籍、雑誌といった、色々な媒体を通して情報が提供されます。こうした仕事は、専門職のプロフェッショナルな人によって行われるものです。また私たちも日々、何らかの形でコンテンツを作っています。たとえば授業のレポートとかイベントのポスターといったものも、コンテンツの一つです。
そして現在では、多くのコンテンツがコンピュータを用いて作成されるようになりました。情報技術の発展のおかげで、プロフェッショナルな人が作るコンテンツも一般人が作るコンテンツも、共に質が押し上げられました。
マルチメディアデータの普及 #
情報技術の普及で変わったことの 1 つに、マルチメディアデータが容易に扱えるようになったという点があります。
2000 年頃まで、一般家庭で画像、音声や映像といったマルチメディアデータを使うのはたやすくありませんでした。画像ならフィルムカメラ、音声ならテープレコーダー、映像ならビデオカメラという道具はあったものの、せいぜいデータを記録することしかできません。これらのデータの加工はかなり難しいものでした。そして値段も決して安くはなく、「湯水のごとくマルチメディアデータを記録して利用する」などという真似は、プロフェッショナルな人を除いては不可能でした。
ところが現在では
- 情報記録媒体の記憶容量
- コンピュータの性能
のいずれもが爆発的に向上したため、状況が一変しています。今ではスマートフォン 1 台あれば、写真も映像も撮影でき、録音もできてしまいます。このことは、既に多くの人が知っていることでしょう。また今では高性能なコンピュータが普及し、かつマルチメディアデータの編集に使えるソフトウェアも安価になりました。そのためマルチメディアデータを記録するだけでなく、加工することも自由自在にできるようになりつつあります。またプロフェッショナルな人たちが使う道具の性能も、以前と比べて格段に向上しています。
紙メディアの質 #
マルチメディアデータに比べると、紙というメディアに印刷されたデータは古くから存在したものです。しかし情報技術の恩恵を受けたという点では、紙メディアも共通しています。
一般市民にとって最も大きい出来事は、文書作成ソフトウェアとプリンタの普及ではないでしょうか。今では私たちは、整形された文書をコンピュータで簡単に作り、それをプリンタで簡単に出力できるようになりました。一般市民が作ったコンテンツの質は決して高くはないとはいえ、それでも 1950 年頃に使われていたタイプライター打ちの文書と比べると、見栄えは段違いに良くなっています。
もちろんプロフェッショナルな人たちが作る出版物の在り方も大きく変わってきました。昔は本を作ると言えば、活字による組版をするしかありませんでした。それが写真植字を経て、今ではコンピュータの画面上で版面の仕上げまでできるようになっています。
コンテンツの配送面 #
コンテンツ自体の質の向上と合わせて、コンテンツ配送方法の進化も考えないといけません。
特に重要なのは、インターネットの登場です。インターネットの発達は、コンテンツの配送に大きな影響を与えました。インターネットが無かった時代には、文字であれ映像であれ、コンテンツを誰かに届けるには紙やビデオテープといった「記録媒体の現物」を配るしか手段がありませんでした。ところが
- インターネットで、世界中の色々なコンピュータがひとつながりになったこと
- デジタル符号化された情報は、何回でも劣化なくコピーができること
によって、コンテンツを供給するコンピュータを 1 台インターネットにつないでおけば、そこから世界中の人がコンテンツをダウンロードできるようになったのです。この方式は最初、一部の学術論文に対して使われるようになりました。それまで長い時間をかけて世界各地の研究機関に送られていた紙の論文がインターネット越しで見られるようになったのは、まさに革命的な出来事でした。
学術分野から少し遅れて、一般市民もインターネットの恩恵を受けるようになりました。インターネットの通信速度が向上したおかげで、サイズの大きいマルチメディアデータも自由にやり取りできる環境が整ったからです。今では動画配信サービスを通じて、多くの人が映像コンテンツを手軽に楽しめます。動画配信サービスの利用者が増えた結果、映像コンテンツを用いたビジネスモデルのありかたさえ変わろうとしてます。
またインターネット以外のコンテンツ配信手段も、情報技術の発展による影響を受けました。その典型例が地上波デジタル放送(地デジ)でしょう。デジタル信号はアナログ信号に比べ
- 表示に比べて必要となる機材が、技術的に高度になる
- データの転送に必要な周波数帯が少なく、またデータ転送の信頼性も高い
といったメリット / デメリットがあります。そして情報技術の発展に伴う機材の低コスト化で、一般家庭でもデジタル放送対応テレビが普通に買えるようになり、デジタル放送の金銭的なハードルがクリアできました。そのため現在の地上波デジタル放送が導入され、今ではアナログ放送の方が廃止されました。地上波デジタル放送によって放送される映像の画質も上がり、私たちはより綺麗な映像を眺められるようになったのです。