LaTeX は,TeX と呼ばれるソフトウェアを元に作られたものです.LaTeX による文書作成を解説する前に,TeX と LaTeX についての大まかな説明をしておきます.
TeX は,正しくは右画像の1行目のように E を左下に割り込ませて表記し,「テフ」または「テック」と読みます.Donald E. Knuth 氏が作成された「特にたくさんの数式を含んだ美しい書籍を製作するための組版システム」で,以下のような特徴があります:
- フリーソフトウェアで,Windows, Mac, Linux など,様々な環境で無料で使うことができます.同じ入力(25 年前の入力であっても)からは,どんな環境でも全く同じ結果が得られます.
- Word のようなワープロソフトとは異なり,HTML のようにプレーンテキスト中に様々なコマンド(正しくは control sequence(制御綴)と言います)を記述することによって文書を作成します.
- 非常に美しく数式を出力でき,数式を表記するときの事実上の標準となっています.様々な論文誌が TeX 形式による投稿を受け付けている他,TeX で組まれた書籍も多いです.
- 非常に強力なマクロ機能を持ちます.厳密に言えば,LaTeX は TeX の上で動くマクロ集の 1 つにすぎません(マクロ文法は非常に独特で,習得は非常に難しいですが).
しかし,TeX 単独では,「今からこのフォントを使う」「何ミリ空白を空ける」などの基本的機能しかなく,これでは実際の文書作成には向きません. このような欠点を解決し,実際に文書を作る際に便利な機能が追加されたものが,Leslie Lamport 氏により開発された,本章の主題である LaTeX です(ロゴは,正式には右上画像 2 行目のものです).上に加え,LaTeX の特徴として,次が挙げられます.
- LaTeX では,文書構造と実際の見た目とを切り離して書くことになります.章番号・節番号の管理なども自動で行えるので.内容を論理的に書くことだけに集中できます.
- 多言語処理能力も強力で,日本語・欧米諸言語の他,アラビア語・ヘブライ語などを1つの文章中に簡単に混ぜることが(パッケージの読み込みなどが要りますが)可能です.
TeX それ自体は 1990 年から機能拡張はされなくなりましたが,LaTeX は今も新版 (LaTeX3) の開発が続けられています.また,様々な TeX の拡張が,現在に至るまで精力的に開発されています.(株)アスキー によって日本語化された pTeX と,pTeX 用に LaTeX を改変した pLaTeX もその1つで,日本で「TeX を使っている」と言った場合,大体は実際には pLaTeX を使っていることになります.この教育用計算機システムで実際に皆さんが扱う LaTeX も,実際には pLaTeX です.
LaTeX を使いこなすには多くのことを学ぶ必要があり,「すごく簡単」とは言えません.本章では基本的な部分をざっと述べるだけです.特に本章においては,「箇条書きの番号の表記を変える」「縦方向に空白を空ける」などの見栄えに関する説明は,数式以外ではほとんどしません.本格的に学習する際には,章末 27.12 参考文献 に挙げた参考文献を読むことを強くお勧めします.
LaTeX を用いた文書作成のステップ
次節 27.2 まず使ってみる で例を用いて勉強しますが,TeX/LaTeX による文書作成は,大まかにいって次のようなステップを踏みます:
- 原稿(「TeX ソース」と呼ばれます)をエディタを用いて作成します.
- その原稿を TeX/LaTeX に処理させ(「コンパイルする」「タイプセットする」とよく言われます),dvi (DeVice Independent) と呼ばれる中間形式のファイルを得ます.
- dvi を表示する適当なソフトウェアで dvi を表示させ,必要なら 1. に戻ってソースを編集します.
- あるいは,dvi から PDF ファイル等に変換し,それを表示したり印刷したりします.
重要なことは,全ての機能を含んだ TeX という単一のソフトウェアが存在しているのではなく,常に複数のソフトウェアが絡んでくることです.
- TeX/LaTeX は「ソースから dvi を出力する」作業しか行いません.
- 色の設定や画像,さらに「実際にどのフォントを使って表示するか」などは,全て dvi ファイルを扱うソフトウェア(dvipdfmx, dviout, xdvi, dvips, …)に任されています.そのため,色や画像を扱うのはやや面倒です.画像の挿入については,簡単に 27.11 グラフィックス で説明します.
- 作った文書を PDF に変換したのならば,PDF ファイルを表示したりするプログラム(Mac 環境の場合は「プレビュー」にあたります)も絡んでくるでしょう.
TeX システムのインストール
TeX/LaTeX と関連したソフトウェアをまとめたものを「TeX システム」「TeX ディストリビューション」と呼びます.皆さんが自宅で使うコンピュータには,最初から TeX システムが入っているということはほぼないでしょう.そのため,自分でインストールしなければなりません.
ここでは執筆時点(2012年3月)現在の状況について書きます.詳細については,TeX Wiki(奥村晴彦氏運営の Wiki)を参照して下さい.
Linux などの UNIX 系 OS では,TeX Live という TeX システムが利用されることが多いです.以前は日本語用の pTeX は取り込まれておらず,ptexlive などのパッチが必要でしたが,TeX Live 2010 以降では pTeX が取り込まれています.OS 側の rpm, apt, portage, ports といったパッケージ管理システムで TeX システムをインストールできることもありますが,それだとバージョンが古いことがあります.
Mac OS X でも,TeX Live を使用できますが,それを元にした MacTeX もあります.
Windows でも TeX Live は動きます(教育用計算機システムの Windows 環境には TeX Live 2011 が入っているようです)が,今のところは近畿大学の角藤亮氏による W32TeX を使うのが無難です.W32TeX のインストールは,阿部紀行氏による TeXインストーラ 3 を使うと簡単にすませることができますが,一回は W32TeX の公式ページにある簡易インストーラを使ってインストールしましょう.