私たちが郵便を送るときに相手先の住所が必要になるのと同じように,インターネットを経由した通信では,通信先のコンピュータの住所にあたるものが必要です.インターネット上の通信は IP (Internet Protocol) という通信規則に則って行われるので,インターネットに接続されたコンピュータのアドレスは IP アドレス と呼ばれます.その IP にはバージョン 4 とバージョン 6 の 2 つがあり,バージョンによってアドレス名の付け方が違うため,それぞれに応じて IPv4 アドレス / IPv6 アドレスと呼び分けます.
この節では IP アドレスの基礎知識と,それに関連する話題を紹介します.
IPv4 アドレス
IPv4 はインターネットの創生期から現在に至るまで使われ続けてきたプロトコルです.そのため単に IP アドレスというときは,通常 IPv4 アドレスのことを指します.IPv4 アドレスは 32 ビットの数値で表され,人間が読むときはピリオドで 8 ビットごとに区切って 10 進表記に直します.たとえば 192.168.0.1 や 127.0.0.1 が IP アドレスの例です.
IPv4 アドレスは 0.0.0.0 から 255.255.255.255 まであり,大雑把に言うと 42 億個の機器を識別することができます.しかし地球上の総人口は 60 億を超えていますので,これでは 1 人 1 人が自分の機器の IP アドレスを持つことさえ叶いません.実際日本では 2011 年 4 月に IPv4 アドレスが枯渇し,新しい IPv4 アドレスは基本的に手に入らないようになってしまいました.IPv4 アドレスの利用を延命する方法がないわけではないですが,所詮は延命に過ぎないのでいつまでも IPv4 に頼るわけにはいきません.そこで今後使われるようになるのが IPv6 です.
IPv6 アドレス
新しい IP である IPv6 では,アドレスに 128 ビットの数値を使います.これだけあれば 2128 個の機器が認識できます.もう少し感覚に訴える言い方をすると 2128 は 42 億の 4 乗を超える数ですので,将来どんなに地球上の人口が増えて 1 人 1 人が 1 億個以上のアドレスを消費しても,それでも全然使い切れません.要するに,事実上 IPv6 アドレスは無限に使えます.IPv6 と IPv4 には何点か違いがあるのですが,最も重要なのは利用できる IP アドレスの数の違いです.アドレス数を十分多く用意することが,IP アドレスの枯渇問題に対する恒久的な解決策になるわけです.
IPv6 アドレスを人間が読み書きするときは 128 ビットを 16 ビット 8 つに区切り,各 16 ビットを 16 進数で表しそれらをコロン : で繋いで表します.たとえば 2001:200:180:0:0:0:53:1 や 0:0:0:0:0:0:0:1 が IPv6 アドレスの例です.また IPv6 アドレスを表記する際は,連続する 0 を :: で省略できます.たとえば 2001:200:180:0:0:0:53:1 を略記すると 2001:200:180::53:1 となり,0:0:0:0:0:0:0:1 を略記すると ::1 となります.ただしこの略記法は,アドレス内の 1 箇所でしか使えません.
IP アドレスの管理
IP アドレスはインターネットに繋がってる端末,ひいてはその端末を所有する全世界の個人や団体が使うものですから,公共的な資源です.そこでインターネットの利用者に IP アドレスを適切に割り振るため,いくつかの機関が連携して IP アドレスの管理に当たっています.
管理構造の一番上に立つのは ICANN という組織です.ICANN の下に地域別インターネットレジストリ (RIR) と呼ばれる組織があり, さらにその下に国別インターネットレジストリ (NIR) という組織があり,上の組織が下の組織に必要な分だけ IP アドレスを割り当てます.たとえば日本の場合,アジア太平洋地域の IP アドレスの割り当てを管理する APNIC という団体に ICANN が IP アドレスを割り当て,そのアドレスを APNIC が JPNIC (日本ネットワークインフォメーションセンター) という団体に割り当てます.そして JPNIC が指定事業者に IP アドレスを割り当て,そのアドレスがまたプロバイダに割り当てられ,最終的にプロバイダがみなさんへの IP アドレスの割り当てをしています.IP アドレスは膨大な個数ですから,こうして割り当てを何段階にも分けることによって,各個人や団体がスムーズに IP アドレスを取得できるようにしています.